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WWN ニュースレター 2009年10月23日発行①

~格調高く、実践的なCEDAW最終見解~                                   

 

越堂静子

 

今回の最終見解の特徴 

女性差別撤廃委員会は日本政府レポートを審議後、8月18日に、最終見解を発表した。懸念事項、勧告、フォローアップ項目など60項目からなる。「条約が、締約国において拘束力のある人権条約で女性の前進の根拠であること(第19)。労働市場に、事実上の平等の実現を優先するように(第46)」と促し、日本から、女性差別をなくそうという意気込みと情熱にあふれていて、とても格調高く、かつ実践的な内容である。

 今回は第6次政府レポート審議であったが、初めて出された勧告は次の2点である。まず、雇用問題における裁判が長いことを指摘し、「司法による本条約の直接適用の強化」(第20)。そして、「官民双方の雇用分野にセクハラを含む女性に対する差別に制裁措置の設置を奨励」(第46)という斬新的な内容である。

 

「司法への条約直接適用」を引き出した背景

この背景には、WWNの参加者23名のうち、兼松をはじめ、住友メーカー、岡谷鋼機など賃金差別裁判の原告、元原告たち8名の参加がある。さらに、最高歳で判決を待つ兼松の原告が、14年もの長き裁判と、「コース別制度」の実態を、CEDAW委員にむけ発言したことも大きなインパクトとなった。

審議会にて、ブルーン委員は「NGOから有効な資料をいただいた。日本では、条約のステイタスが深刻な状況、原告が主張している条約が国内法に活かされず敗訴している。裁判が非常に長い。CEDAWの十分な実施にむけて何をしているか」と質問。さらに、パッテン委員は、「同一価値労働同一賃金を国内に入れる考えはあるか?兼松、住友メーカーなど14年も裁判がかかる。国内法に同一価値労働同一賃金が含まれていればもっと、解決が早かった。賃金格差縮小のために、法的枠組みが必要ではないか?」と、するどく追求した。

実は、パッテン委員が日本滞在中に、住友電工、兼松裁判が、「憲法には反するが、公序良俗には反しない」と同じ理由で、大阪地裁、東京地裁にて敗訴したことに、大いに驚かれ、判決を送ってほしいと所望された。 

 

膨大な判決文を短期間で英訳していただいた岡田仁子さんに感謝である。こうして条約を無視した判決内容が国際的に明白となり、CEDAW勧告として、日本の司法の慣行、仕組みに鉄槌をうちこむことになった。

 

2つのフォローアップ項目

この目新しいフォローアップ項目は、昨年7月のCEDAW第41会期から登場した。

フォローアップ手続きとは、『追記情報提出要請手続』と呼ばれるもので、最終見解の履行を確実なものにするために、実施状況について次回の政府報告審査を待たずに締約国に情報の提出を求めるものである。 

  日本にとって初めて指摘されたフォローアップは、つぎの2項目である。一つは、女性に不利となる差別的法規である民法や戸籍法の改正(第18)と、二つ目は、あらゆるレベルでの意思決定過程に女性の参画拡大にむけての暫定的特別措置(第28)である。CEDAWは日本政府に対し、2年以内に、この2項目の実施に関する書面の詳細な情報提供を要請した。

 

雇用に関する指摘

つぎに、雇用に関する主な内容のピックアップです。

      差別の定義が国内法にない。改正均等法にその定義を取り入れず、間接差別の狭い定義を導入したことを遺憾に思う。(第21)

     特に、職場における女性や政治的・公的活動への女性の参画に関し実質的な男女平等を促進し、女性の権利を向上させるため暫定的特別措置が講じられていないことに遺憾(第27)

     雇用管理区分が、雇用者に女性を差別するコース別制度を導入する抜け道を提供していることを懸念(第45)

     同一労働同一賃金、同一価値労働同一賃金の規定が労働基準法にないことを懸念(第45)

ここには働く女性の切実な思いを提案した、WWNのミッション(指針・雇用管理区分の削除、間接差別の事例拡大、同一価値労働同一賃金)のすべてが反映された。

 

 

 

 

WWNの今後の実践計画

選択議定書の批准は、そのメカニズムが司法による条約の直接適用を強化し、女性に対する差別への理解を促す。とCEDAWは強い確信を表明している。

WWNは、この早期批准と、最終見解の実現をめざして、省庁交渉をはじめ、暫定的特別措置の実施など、中長期計画を検討する。そして、新政権にむけ、NGOやNPOの政策決定機関への参加要望を行い、2014年のCEDAW審議会には、「NGOと政府の二人三脚で、ここまで男女平等が促進した」と、報告したいものである。 

 

 

 女子差別撤廃委員会の最終見解(雇用部分を抜粋・太字はフォローアップ項目)

 

<差別的な法規定>

18.)委員会は、男女共に婚姻適齢を18 歳に設定すること、女性のみに課せられている6カ月の再婚禁止期間を廃止すること、及び選択的夫婦別氏制度を採用することを内容とする民法改正のために早急な対策を講じるよう締約国に要請する。さらに、嫡出でない子とその母親に対する民法及び戸籍法の差別的規定を撤廃するよう締約国に要請する。委員会は、本条約の批准による締約国の義務は、世論調査の結果のみに依存するのではなく、本条約は締約国の国内法体制の一部であることから、本条約の規定に沿うように国内法を整備するという義務に基づくべきであることを指摘する。

 

<差別の定義>

22.)委員会は、本条約及び本条約第1条に記載された女性に対する差別の定義を国内法に十分に取り入れるために早急な措置を講じ、次回報告においてこの点に関する進捗状況を報告することを締約国に要請する。

 

<暫定的特別措置>

28.)委員会は、本条約第4条1及び委員会の一般勧告第25 号に従って、学界の女性を含め、女性の雇用及び政治的・公的活動への女性の参画に関する分野に重点を置き、かつあらゆるレベルでの意思決定過程への女性の参画を拡大するための数値目標とスケジュールを設定した暫定的特別措置を導入するよう締約国に要請する。

 

<雇用>

45.)委員会は、明白な男女間の水平的・垂直的職務分離に反映されている、労働市場における女性の不利な状況について依然として懸念を有する。委員会は、とりわけ、男女雇用機会均等法に基づく行政ガイドラインの「雇用管理区分」が、女性を差別するコース別制度を導入する余地を雇用主に与えているかもしれないと懸念している。委員会はまた、性別に基づく賃金格差が、フルタイムの労働者の間では時間当たり賃金で32.2 パーセントと非常に大きく、パートタイム労働者の間ではこの性別に基づく賃金格差がさらに大きいという現状が根強く続いていること、有期雇用及びパートタイム雇用の多数を女性労働者が占めていること、並びに妊娠・出産を理由に女性が違法に解雇されていることについて懸念する。委員会はまた、現行の労働法における不十分な保護及び制裁措置についても、懸念を表明する。委員会は特に、本条約及びILO100 号条約に沿った同一労働及び同一価値の労働に対する同一報酬の原則と認識できる条項が、労働基準法にないことを懸念する。委員会はまた、職場でのセクシュアル・ハラスメントが横行していること、及びセクシュアル・ハラスメントを防止できなかった企業を特定する措置が法律に盛り込まれているものの、違反企業名の公開以外に法令遵守を強化するための制裁措置が設けられていないことに懸念を表明する。さらに、委員会は、雇用問題に関する法的手続きが長期にわたることを懸念する。これは、女性にとって受け入れがたく、また、本条約第2条(c) に規定されている法廷における救済を妨げるものである。

 

46.)委員会は、本条約第11 条の十分な遵守を達成するため、労働市場における事実上の男女平等の実現を優先することを締約国に要請する。委員会は、妊娠・出産による女性の違法解雇の実施を防止する措置と、垂直的・水平的職務分離を撤廃し、性別に基づく男女間の賃金格差を是正するために、本条約第4条1及び委員会の一般勧告第25 号に従った暫定的特別措置を含め、具体的措置を講じるよう締約国に勧告する。委員会は、有効な実施と監視体制を整備し、法的支援や迅速な事案処理を含めて女性の救済手段へのアクセスを確立するために、締約国が、官民双方の雇用の分野における、セクシュアル・ハラスメントを含む女性差別に対して、制裁措置を設けることを奨励する。

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