WWN イベント

WWNニュース №58号 2010.1.25発行②

 

 

 

 

                

 

 

私は2009年の3月、EU主要各国をわずか2週間で回って、派遣労働のセーフティ・ネットがどうなっているかを取材してきました。

ヨーロッパでも派遣は原則どこでも自由化です。業種に関係なくOKして、その代わり全部規制を厳しくする、労働者保護を厳しくする方が効率的であり、均等待遇はきちんとするなどのかたちで、それがILO181号条約です。

EUがどのようにして均等待遇をいろんなジャンルでやっていったか。以下のEU委員会資料を見ればどんどん均等待遇がカバーされているのがわかります。

 

1975年 男女同一賃金原則指令

1976年 雇用・昇進の男女均等指令

1979年 社会保障の男女均等指令

1986年 自営業の男女均等待遇指令

1997年 パートタイム労働の均等待遇指令

1999年 有期労働の均等待遇指令

2000年 人種・民族差別への均等待遇指令

雇用・職業での年齢や信条などによる

差別禁止指令

2008年 派遣労働の均等待遇指令

 

日本の場合はやっと雇用均等法が、均等待遇とは言えないような、差別は禁止していますが同一価値労働や同一労働を担保するようになっていないから実質的にはきちんとできていないし、パートタイム労働法が改正されたけれど、数少ない3つの条件だけを満たしていれば均等待遇でなくてもいいというもので範囲が狭くほとんど使えない。有期労働もまだまだ研究中、人種なんてもちろんできていないし、派遣労働なんかは手つかずです。

 

では各国はどうなっているか。

デンマークは派遣は非常に少ない。デンマークは正社員の解雇規制を緩くし、ひとつの産業がだめになったら次の産業にシフトさせる、正社員のところで変動リスクを回避する、リスクを分担する。グローバル化になるとどこかの国の需要が急に変わって製品の命も非常に短い。くるくる作る物が変わっていく。だからひとつの国の中で安定して雇用していくのが難しいから派遣で対応するようになってEUも自由化を認めた。デンマークはそれを正社員でやったという非常に特異な国です。日本の新自由主義、規制緩和が大好きな人がデンマークは解雇規制を緩くしてうまくいってると宣伝し、日本もどんどん首切れば産業から産業へ移動が簡単になってうまくいくと言うけれど、10年前にもデンマークに取材に行ったがあの国は簡単に解雇する国とは思えないし、人権意識も高い。確かに解雇は妊娠中の女性以外は簡単にする。解雇理由は言わなくてもいい。もちろん聞けば言わなくてはいけない。デンマークは労働組合の組織率は87%で、解雇する前に労働組合が面談して不当解雇でないかどうかを一人ひとりチェックして仕方ない時だけ解雇するとなっている。法的規制は緩めても労働組合による規制が残っている。だから景気が悪くどうしようもない時しか解雇はありません。リーマンショック後、解雇したくていろんな国からデンマークを見にくるけど大きな勘違いで、労働組合は解雇される人を次の仕事にあてはめるためにどれだけ苦労し、お金を使っているかがわかっていない。解雇はOKしてもその人たちを少なくとも辞めるまでに次の仕事にはめるまで労働組合と会社が協力している。例えば大きい医療器具メーカーはこの1月に150人解雇があり、一人ひとりなぜ解雇するのか労働組合が見て、これはしようがないとなり、その後で一人ひとりに何がしたいか聞き、職業訓練費を労働組合が交渉して会社から引いてくる、職安とも協力して空きがある業界はどこかリストをもらってきて、技能をつける費用は会社に出させる、これを先ずやる。解雇になったときはカウンセラーも紹介する。大きくない会社は労働組合が引き取って、売り込み方とか教えて職業紹介をする。そういう国ですから法的解雇規制が緩んでも何とかなっているという仕組みです。世界変動にあわせて転職の仕組みをしっかり作ったのがデンマークです。 

ドイツの場合は常傭型の派遣です。ドイツはリーマンショックで人をかかえていて大丈夫かと思ったがやはり解雇した。但し均等待遇はずっと以前からあるし、派遣社員が労働組合の従業員代表になっている。派遣社員も正社員で、一緒に労働組合を作っていて、今回のリーマンショックで解雇は仕方ないが景気が回復したら先にクビにした人から雇う優先順位の交渉をした。リーマンショックみたいにひどくない時、労働時間貯金口座を使って、仕事がない期間、その口座から時間を引き出して賃金に充てる。ドイツは長い休みが欲しい人が多く、残業しても残業代をもらわず労働時間で貯めておき、長い休みが欲しいときはそれを使って長期休暇をとる方法がある。派遣会社はそれを援用して時間を貯めておき、仕事がなくなったら口座から賃金を引き出して食いつなぐ。これは制限があって1ヶ月だけ、なぜなら悪い会社が賃金を払わず時間を貯めようとする恐れがあるからです。上限があるので今回のように長引くときは難しく解雇になってしまう。製造業ではワークシェアリングを派遣も含めてやろうとしている。ワークシェアリングは労働時間を短縮して賃金カットはするが解雇はしないことです。派遣社員とか非正規社員をまずクビにした上でワークシェアリングするのがこれまでのルールだった。今回リーマンショックで派遣社員も増えてるし、派遣社員をクビにしたら派遣社員の仕事をなくすので、派遣社員も含めてワークシェアをするように法律を変えた。このことから派遣社員をまともに扱っているのがわかる。

フランスは登録型派遣が多いが均等待遇をしっかりやっている。正社員のあとに派遣を入れる場合、カフェテリアの利用権などあらゆる権利を正社員と全く均等にやらなければならない。辞めるときは解雇手当がつく。均等待遇にして悪い点は一つ、正社員より待遇は上げられない。そのために職業訓練システムを充実していて、国の職業訓練機構に派遣の人を入れて、派遣の人はもっと高い賃金をもらう職業をえる。資格性がきちんとしていて、この資格ならこの賃金、資格がグレードアップしていけば賃金も上るという状況です。フランスの場合、会社は賃金の1.6%を拠出しなければならない。会社は職業訓練に金を出している。派遣業界はそれより高いお金、2.2%をださなければいけない。ドイツもフランスも失業保険の期間が1年以上、それでも仕事がなければ生活保護が出る。日本の派遣は期間が短いから失業保険の需給資格もない。家や寮があるから派遣で入って、派遣切りになれば家もないというのが日本、安全度が全く違います。日本がなぜこんなに劣悪な仕事がはびこるか、働かないと安全感がないので結局どんな仕事でもつかないと食べていけないからで、劣悪な仕事が淘汰されないのです。

オランダはイギリスと似て派遣普及率は高い。ただ均等待遇が効いていて、短い時間でも同じ仕事なら同じ賃金という考えがしっかりしている。派遣の4人に1人は正社員にしている。均等待遇しているので正社員にしても人件費負担は変わらない。おもしろいのは悪質な派遣会社を駆逐するために労使で監視機関を作り、発覚するとすごい罰金を取る。会社は「労働協約ポリス」と言ってこわがっています。オランダの問題は均等待遇していても相変わらず男女格差は大きい。なぜなら女性職、男性職があり、女の人は安い仕事に就き、男性は高い仕事に就いています。同一価値労働同一賃金が適用されれば別ですが、それをちゃんとやらないと賃金格差は広がります。

スペインは3人に1人が有期雇用で(日本は33%)、有期でやっている仕事は安い仕事です。均等待遇では同じ仕事なら同じ賃金だから、高い仕事は正社員がやっている。作業現場などの仕事は安い移民労働者が入ってきて安くやる。リーマンショックで移民関係の安い労働力は一斉に首になり、失業率は17%、5人に1人です。安い労働力をどんどん入れ、質の高い仕事を作ることを怠り、質の低い労働市場になったのが脆弱になった理由だという批判がでていますが、これは日本に似ています。日本の反省すべき点は、人件費を下げる方向しかやってこなかった。食べられる産業を作ろうとせず、苦しくなると派遣に変えよう、パートに変えようと賃下げで乗り切る賃下げ依存症です。食べられない産業をずっと続けていって構造転換ができずにジリ貧となる。それは労働組合がおとなしくて、会社がつぶれるよりはまし、そして賃下げを飲む、派遣をなくしたら会社がつぶれる、新聞の論調も最近はそうです。しかし、どこかで腹をくくるべきで、発想をかえないとだめだとヨーロッパへ行って思いました。例えばデンマークなどは付加価値の高い産業へと、ただ物を作る産業から懸命に移行してきたし、そのために教育投資をしている。日本は教育も福祉も削って、働き手を疲弊させていって、次の新しい産業を作るための教育を全くしていない、ヨーロッパとの違いをつくづく感じました。

PAGE TOP▲