オールタナテイブレポート
ワーキング・ウイメンズ・ネットワーク
代表 越堂静子
大阪市中央区大手前1-5-6-403
Tel&Fax 06-6941-8700
Email: wwin@my.email.ne.jp
URL: http://www-net.org
2009年6月4日
国連・女性差別撤廃委員会へ
Alternative レポート
Presented by
ワーキング・ウイメンズ・ネットワーク
ワーキング・ウイメンズ・ネットワーク(WWN)は、女性差別撤廃条約の第11条の「雇用」に関して、日本の働く女性の実態を、Alternative レポートとしてお送り致します。
このレポートにて、職場における男女平等を促進するために、WWNは、4つの重要な提案を行います。
特に、男女雇用機会均等法の指針のおける「雇用管理区分」が、間接差別のコース別制度を容認し、多くの女性たちの平等を阻害していることに注目していただきたいと思います。
間接差別のコース別制度によって女性の賃金や昇進は頭打ち
入社時 5年後
Alternative レポート
CEDAW 第44回日本政府レポート審議会にむけて
第11条 雇用における差別の撤廃
(b)同一の雇用機会(雇用に関する同一の選考基準の適用を含む)についての権利
(d)同一価値の労働についての同一報酬(手当てを含む)及び同一待遇についての権利並びに労働の質の評価に関する取扱いの平等についての権利
ワーキング・ウイメンズ・ネットワーク(WWN)は、日本政府にCEDAW条約の遵守と実行を求め、貴委員会に、働く女性の実態報告と男女平等促進のための提案を行います。今回のCEDAW第44会期・日本政府第6次レポート審議会において、雇用における差別の撤廃のための法的措置など、日本政府にむけ活発な論議を行って頂き、CEDAW総括所見および、2年間のフォローアップ項目として、取り上げて下さいますようお願い致します。
《 WWNの提案 》
1.男女雇用機会均等法の指針の「雇用管理区分」というカテゴリーの削除
2.間接差別禁止を国内法に明記すること
3.男女同一価値労働同一報酬原則を規定するために法改正の措置を取るよう求める
4.選択議定書の早期批准
提案1: 男女雇用機会均等法の指針の「雇用管理区分」というカテゴリーの削除
【背景】
1. 男女雇用機会均等法の指針の一部は平等を阻害
男女雇用機会均等法・指針の「雇用管理区分」というカテゴリーは、職種、雇用形態の名のもとに、低い賃金、昇進できにくい分野に女性を集中させる間接差別であり、日本の男女平等を阻害する根源である。「雇用管理区分」は、企業にコース別人事制度を導入する機会を与え、均等法施行20余年の今も、総合職に占める女性の比率はわずか5.1%(厚生労働省・2004年)である。
「雇用管理区分」により、同じ職種内(総合職)での男女差別は禁止であるが、職種がちがえば不問となる。したがって、雇用管理区分が異なると判断された男女労働者の間の処遇の差は、指針における禁止事項の対象にならず、雇用管理区分の差を設けておきさえすれば、事業主は均等法違反を問われない。2007年に均等法が改定されたが、「雇用管理区分」という名称と実体は変わっていない。指針の「雇用管理区分」というカテゴリーは、日本の男女平等を阻害する根源であり削除すべきである。
男女雇用機会均等法の第5条、第6条は下記の表に示すように、雇用ステージにおける差別的取扱いを禁止している。均等法の5条、6条の活用によって、女性たちの能力開発の道を開くことになり、雇用における男女平等が促進することは確実である。
【男女雇用機会均等法と指針の対比】
《男女雇用機会均等法》
(第5条) 募集、採用について性別を理由とする差別的取扱いを禁止。
(第6条) 配置、昇進、降格、教育訓練等について性別を理由とする差別的取扱いを禁止。
《男女雇用機会均等法・指針》
(第5条関係) 募集、採用に関し、一の雇用管理区分において、その対象から男女のいずれかを排除することは禁止。
(第6条関係) 昇進に関し、一の雇用管理区分において、一定の役職への昇進にあたって、その対象から男女のいずれかを排除することは禁止。なお、配置、教育訓練の場合も上記と同文。
*コース別制度による男女差別の実態
(資料1)
(資料2)
M大手総合商社におけるコース別制度下の男女賃金表
同社の総合職に占める女性割合は3.7%(2007年調査)
55才女性の賃金は2 7才男性の賃金を超えることはできない。
(資料3)
提案2:間接差別禁止を国内法に明記すること
【背景】
1.間接差別は限定列挙ではなく実態に即して事例を拡大すること
3.前回の総括所見(A/58/38、パラ357)において、委員会は、国内法に差別の具体的な定義が欠如していることについて懸念を表明し、条約1条に沿った、直接及び間接差別を含む、女性に対する差別の定義を国内法に取り込むよう勧告した。委員会の勧告を受けて政府がどのような措置を取ったか示して下さい。(2008年11月CEDAWから政府へ質問)
上記のCEDAW総括所見(勧告)にもとづき、改正均等法に日本で初めて「間接差別」の概念が記された事は一定評価できる。しかし、均等法には、間接差別という文言はどこにも明記されていない。国内法に明確に記載すべきである。しかも、省令に規定された下記の3事例のみが該当するというもので職場の実態から乖離している。
3事例とは、(1)労働者の身長、体重、体力に関する要件、(2)コース別雇用管理制度における労働者の募集と採用に関連して、住居の移転を伴う結果となる配置転換に労働者の募集と採用に関連して、転勤が応じられるかどうかにかかわる要件、(3)職務の異動と配置転換を通じて得られた労働者の経験といった昇進のための要件である。
これさえクリアすれば間接差別は問われない。本来は間接差別について限定列挙ではなく、幅広い定義をするべきであるが、せめて、2004年6月、厚生労働省が主催した「男女雇用機会均等政策研究会」が提案した、「間接差別」としての7例のうち「報酬に関するあらゆる形態の間接差別」の下記の4例が除外されたのは問題であり、間接差別の事例として明記すべきである。
① 募集・採用における一定の学歴、学部要件
② 福利厚生の適用や家族手当の支給における住民票上の世帯主要件
③ 処遇の決定における正社員を有利に扱ったことによる男女の処遇の違い。正社員とパートタイム労働者の間で職務の内容や人材活用の仕組みや運用などが実質的に異なること等(総合職と一般職との間の処遇の違いについても同様)
④ 福利厚生の適用や家族手当等の支給のおけるパートタイム労働者の除外による男女のちがい。
2.女性のみを契約社員として3年間の雇用は間接差別
総務庁統計局「労働力調査」によると、2007年の雇用者総数は5,523万人、女性雇用者数は2,297万人である。非正規労働者数は1,700万人、そのうち70%が女性である。
女性雇用者数の内訳は役員を除き、正規社員、1,039万人、アルバト、170万人、その他の雇用形態(契約社員、嘱託、派遣社員等)285万人である。
ここでは、非正規社員のうち、特に、契約社員のことを取り上げる。大学を出て正規社員の道がなく、やむなく非正規社員の道を選ぶ若い女性が多いが、3年などの契約期間の雇い止めには、均等法をはじめ、他のどの法律でも救済はできない。「あなたが、契約に同意したのだから」と裁判でも敗訴である。
40年前に企業に存在した、女性若年定年制の再来である。
イギリスのLondonで、EOC(雇用平等委員会)の女性部長に「契約社員は間接差別ではないか」と質問したところ、「本人と企業の契約だから間接差別ではない」との答えがあった。「大手商社にて、一般職の新入社員採用をストップし、代わりに5年間の契約社員を採用している事例があるが、この場合はどうか?」「女性のみを対象に3−5年の契約社員として雇用する事は間接差別である」と彼女は断言した。その、実例が下記のグラフである。女性のみを対象として、3年間の契約社員という雇用形態は「間接差別」にあたる。
【資料5】
女性のみを対象にした3年間の契約社員雇用は間接差別(A商社)
新しいタイプの間接差別
【資料6】
−−−−−2008年3月 ILO条約勧告適用専門家委員会報告から抜粋−−−−−
7.間接差別
連合は、間接差別に関する均等法の限定的な規定が国際基準に合致するかどうか疑問視しており、引き続き間接差別の範 囲を特定しない幅広い定義を同法に盛り込むよう求めるとした。WWNも、間接差別のより幅広い定義が適用されるべきであるとの意見を提出している。
報酬に関するあらゆる形態の間接差別は、本条約に即した措置を講じられるべきであることを想起しつつ、委員会は、均等法第7条とその施行規則第2条の適用に関する詳細な情報を提供することを日本政府に求める。
8.コース別雇用管理制度
連合とWWNの双方とも、コース別雇用管理制度が、事実上、依然として男女差に基づく雇用管理として利用されていると主張している。両者は、政府が出した「均等法指針」では、男女差別の禁止の適用を各「雇用管理区分」内に限定しているために、同一価値労働同一報酬原則に反して、別の区分で雇用された男女間の比較を排除することになる。そのため政府によるこの指針が、男女差にもとづく雇用管理の端緒を開くことになったとも両者は主張している。
提案3:男女同一価値労働同一報酬原則を規定するために法改正の措置を取るよう求める
【背景】
1.均等法施行直後に起こったこと多くの商社や、現在最高裁に賃金格差裁判を原告の女性たちが上告中である商社・兼松でも、1985年均等法施行後、コース別制度が導入され従前の男女別賃金制度を、そのまま職種別賃金制度に移行した。自動的に男性は全員が総合職に、女性は全員が一般職に呼称変更された。女性のみ、上司の推薦などによって、総合職転換試験を受けほんの僅かな女性のみが総合職になった。
2.コース別制度のもとでの男女賃金差別裁判
1995年、商社・兼松に勤務する6名の女性たちは、55歳の女性の賃金は27歳の男性の賃金をこえることは出来ないため、この賃金格差の是正をもとめて提訴した。
現在、提訴して14年目をむかえ最高裁にて係属中である。東京地裁において「憲法には違反するが、公序良俗には反しない」と理解しがたい司法の判断で敗訴した原告らは、東京高等裁判所にむけてオンタリオ州のジェンダーに中立な、ペイ・エクイテイ法を使い同一価値労働同一賃金にもとづいて、研究者および商社勤務者とともに職務評価を行い、鑑定書を提出した。
原告らは、担当職務と同じ職場の男性の職務を比較・分析。その結果、比較対象の男性総合職の職務の価値を100とし、原告ら女性一般職の職務の価値の比は、それぞれ、111、102、100、95、92、と高率を示し、比較対象者の男性に比して勝るとも劣らないほぼ同等価値の職務を遂行していることが明らかになった。
これに対して原告らの賃金は、高くても総合職男性比67%、低い者は48%の賃金しか支払われておらず、当該鑑定意見書は、賃金は職務の価値の比率に対応して是正される必要があると結論づけた。高裁の判決は、「コース別人事は労働基準法4条違反」と、一部ジェンダーバイアスな判決内容が残るものの、画期的な判決が下された。
3.いまこそ、求められる同一価値労働同一賃金の立法化
住友メーカーの女性たちの場合は、同期同学歴の男性と比べ、月額24万円の賃金格差の是正を求め提訴して解決まで8年から11年もかかった。前述の商社兼松のケースは提訴以来14年が経過し、長期間の裁判のため原告たちは精神的にも経済的にも多大な犠牲を払っている。男女同一価値労働同一報酬原則が法律で明確に規定されていれば、もっと、早い解決がなされたと判断する。
また、職場では、すでに年功序列制度から成果主義制度に移行した現在、職場では上司の恣意的な評価に対して、「何故、同僚よりも賃金が低いのか」と男性社員の間でも不満があるなど、仕事へのモチベーションの低下を招いている。同一価値労働同一報酬原則は、男女間の賃金格差の是正のツールのみならず、正規労働者と比較した非正規労働者の均等待遇の実現のために、必要不可欠な原則となっている。公平な職務の評価システムの構築と、同一価値労働同一報酬原則の立法化が急務である。日本政府に、CEDAW条約を遵守した同原則を規定する法改正の措置を取るよう求める。
【資料7】
<男女賃金差別裁判係争期間>
事件 原告人数 提訴年 解決年 係争期間
野村證券 13人 1993年 2004年 11年間
住友電工 2人 1995年 2003年 8年間
住友化学 3人 1995年 2004年 9年間
住友金属 4人 1995年 2006年 11年間
岡谷鋼機 2人 1995年 2006年 11年間
兼松 6人 1995年 最高裁上告中 14年以上
【資料8】
−−−−−2008年ILO条約勧告適用専門家委員会報告から抜粋−−−−−−
4.同一価値労働
労働基準法第4条では、使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない、と規定しているが、本委員会は、同法が同一価値労働同一報酬の基本に触れていないことから、本条約の原則を十分に反映していないことを想起する。
5.本委員会は、労働基準法第4条と均等法がジェンダーに基づく賃金差別の禁止を保証するために、連合が同二法の改正を求めていることに留意する。WWNは、同一賃金に関する訴訟の長さを強調し、男女同一価値労働同一報酬原則が法律で規定されていれば、より効果的に同原則が実施できるだろうと主張している。
6.本委員会は日本政府に対して、男女同一価値労働同一報酬原則を規定するために法改正の措置を取るよう求める。
【資料9】
労働基準法第4条 (男女同一賃金の原則)
使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と性的差別取り扱いをしてはならない。 (原文のまま)
提案4:選択議定書の早期批准を求める
【背景】
日本において、雇用の分野において男女差別裁判を提訴するのは、とても困難で勇気のいることであるが、「資料7」で示した裁判例以外にも、男女賃金差別是正の裁判が多々存在している。
しかし、労働基準法や均等法の法律のあいまいさが主たる原因となり、その上、本人が賃金差別存在の証拠を提供せねばならない司法の仕組みのために、裁判の解決まで10年以上の年月を有する。現在、最高裁判所にて判決を待つ、商社・兼松の原告たちの場合、提訴から14年もの年月を裁判に費やし、本人、家族を含めその労苦は計りしれないものがある。しかも、当該裁判の高裁において「秘書業務」を女性職扱いし、また「勤続年数が短いこと」を理由に2名が敗訴した。
これは裁判官のジェンダーバイアスに満ちた判決と言わざるを得ない。日本が選択議定書を早期批准することが、今こそ求められている。日本が批准すれば、司法は確実に変化せざるを得ない。女性の権利は人権であるという国際基準を遵守し、ジェンダーに中立な司法が存在すれば、男女間の賃金、処遇の平等が実現するのみでなく、正規、非正規間の均等待遇も促進する。
【資料10】
日本のコース別は間接差別 (明治大学教授 遠藤公嗣)
大卒者のfulltime employeesについてのseniority-based HRMは、1980年代半ば以降、「コース別人事管理」をとることがある。「コース別人事管理」では、employer「総合職」と「一般職」の2つの雇用コースを設定する。そして、campus recruiting のときに、大学生の応募者にどちらかのコースを選択させる(self selection)。総合職コースは、employeeに昇進の可能性があるコースである。
しかし、employeeは長時間労働をemployerに要求されるし、employeeは、employerの命令によって、日本全国そして世界中のさまざまなjobに、ひんぱんに、transferしなければならない(employerの命令を断ることは、日本の法律では、正当な解雇理由となる)。そのため、総合職のemployeeが結婚すると、その子どもや居住地にかかわる世話は、その他の誰かがsupportしなければならない。この誰かとは、多くの場合、配偶者であり、もっと正確に言うと、専業主婦housewifeである。いいかえると、総合職コースは、そのemployeeが専業主婦とカップリングすることで持続可能なコースである。総合職コースの女性は、独身を続けるか、結婚するならば、supporterをみつけなければならない。これは、多くの場合、困難である。これが予想できるので、総合職に応募する女性は少ない。
また、総合職を選択し働き始めた少数の女性も、結婚すると、その配偶者をsupporterにできないことが多いので、結婚後に、退職することが多い。総合職コースは、いいかえるとコース別人事管理は、表面上は性に中立的な制度であるが、実質的には間接差別の制度である。