2008年11月10日 作業部会への質問
2008年11月10日
女性差別撤廃委員会・作業部会御中
ワーキング・ウイメンズ・ネットワーク
代表 越堂静子
第6次日本政府レポートにむけての質問お願いの件
第11条(雇用の分野における差別の撤廃)
Ⅰ.間接差別
●雇用管理区分に関して
質問1.
1)コース別人事制度(*注1)のもとで、殆どの男性と、ほんの一握りの女性のみ
(*注2・表1)を基幹職とする総合職へ配置し、すべての女性を、事務などを行う一般職に配置したのは、間接差別ではないか?
2)総合商社のA社、中堅商社の岡谷鋼機(表2)において、それまでの一般職採用をやめて、女性のみ3年または、5年の契約社員を採用した。女性のみ有期雇用として募集・採用したのは、間接差別ではないか?
3)今回の雇用機会均等法の改正においても、指針に「雇用管理区分」の規定が残った。実態として企業が雇用管理区分を違えておけば男女差別を問えないものであり、これはCEDAWの勧告を無視し、間接差別を容認することになるのではないか。
(背景)
①男女雇用機会均等法の「指針」に、雇用管理区分(職種、就業形態、雇用形態など)が規定された。すなわち、「同じ職種内で男女の差別をしてはいけない。しかし、職種がちがえば、男女差別とはならないとする」というもの。この雇用管理区分は、従前の男女の区分を雇用形態のちがいと書き換えて、男女間格差を固定し拡大した。この雇用管理区分の職種別区分は、下記のデータのように、多くの企業にコース別人事制度を導入する機会をあたえた。また、(*注2)のデータのように、総合職の女性の構成比は、均等法施行後20年たった今も、2%~5%である。結果的に、均等法は、一握りの総合職の女性のみの平等は保障するが、多くの一般職の女性たちにとっては研修も、昇進も昇格も、「絵に描いたモチ」となった。
②企業規模別コース別導入企業: 2003年 (資料出所:厚生労働省)
5,000人以上 46.7%
1,000~4,999人 38.1%
300~999人 23.%
100~299人 13.7%
30~99人 5.9%
③日本政府へCEDAWは次のように勧告(2003年8月)・
委員会は、主として異なる職種やコース別雇用管理制度に表されるような雇用の水平的および垂直的分業から生じる女性と男性の間に現存する賃金格差、および雇用機会均等法に指針に示されているように、間接差別の慣行および影響に関する理解が欠如していることを懸念する
④住友電工男女賃金格差是正裁判の高裁における和解勧告(2003年12月)
大阪高等裁判所 裁判長 井垣敏生
「国際社会においては、国際連合を中心として、男女平等の実現に向けた取組みが着実に進められており、女性がその性により差別されることなく、その才能及び能力を自己の充足と社会全体のために発展させ、男性と女性が共に力を合わせて社会を発展させていける社会こそが真に求められている平等社会であることは、既に世界の共通認識となっているというべきである。
日本国憲法は、個人の尊厳と法の下の平等を宣言しており、わが国においても、国際的潮流と連動しつつ、その精神を社会に定着させるため、女性差別撤廃条約の批准(昭和60年)、男女共同参画社会基本法の制定(平成11年)など、着実な取組みが進められているが、他方、一部に根強く残っている性的役割分担意識等が、男女間の平等を達成するための大きな障害となっている現実もある。就業の場面においては、昭和60年に制定された「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(旧均等法)が平成9年に改正され(平成11年4月施行、改正均等法)、事業主は、労働者の募集及び採用について女性に対し男性と均等な機会を与えなければならず、配置、昇進等においても差別的取扱いが禁止されるに至っている。
このような改革は、男女差別の根絶を目指す運動の中で一歩一歩前進してきたものであり、すべての女性がその成果を享受する権利を有するものであって、過去の社会意識を前提とする差別の残滓を容認することは社会の進歩に背を向ける結果となることに留意されなければならない。そして現在においては、直接的な差別のみならず、間接的な差別に対しても十分な配慮が求められている」
これは司法が、政府に先駆けて間接的な差別へ配慮を表明した画期的な和解勧告であった。
(資料)
(*注1)
2006年4月・均等法改正審議国会にて、コース別人事制度について、政府の回答:
「コース別雇用管理とは、企画業務や定型的業務の業務内容や転居を伴う転勤の有無等によって、いくつかのコースを設定して、コースごとに異なる配置、昇進、教育訓練等の雇用管理を行うシステムを言います。典型的には、いわゆる総合職などの基幹的業務または、企画立案、対外折衝等総合的な判断を要する業務に従事し、転居を伴う転勤があるコース。また、いわゆる、一般職などの主に定型的業務に従事し、転居を伴う転勤のないコース。また、いわゆる中間職などの総合職に準じる業務に従事するが転勤を伴わないコース等のコース設定をして雇用管理を行うものがあります」
(*注2)
総合職及び総合職女性の構成比 2005年 (資料出所:(財)21世紀職業財団)
5,000人以上 2.1
1,000~4,999人 3.6
300~999人 5.0
(*表1)住友メーカー3社における女性の昇進・昇格、総合職の女性採用率
(表2)商社の岡谷鋼機
・ 総合職の女性採用率は2~3%
・2006年以降、一般職女性採用をSTOPし、女性のみ3年契約社員として採用
質問2.
2004年6月、厚生労働省が依頼した、男女雇用機会均等法政策研究会が「間接差別として考えられる例」として7例を提案したが、改正均等法、省令に間接差別は3例(*注3)のみが限定列記され、残る4例(*注4)盛り込まれなかった。なぜ、この4例は除外されたのか?
(背景)
① 政府は「間接差別に関し、日本には判例が少なく社会的にも間接差別のコンセンサスがない」と均等法改正国会にて答弁をしている。
2003年度、第4次・5次日本政府レポート審議会において、CADAW委員ショップ・シリング氏の発言:政府は社会的コンセンサスに重きを置きすぎているが、条約は社会システムと慣行を変えるものであり、政府はもっと積極的な姿勢でその主導権を握るべきである。コンセンサスが出来上がるのを待つのではなく、法が社会を変えることを認識すべきである。
(資料)
(*注3)間接差別の対象として決まった3事例
① 募集・採用における、身長、体重、体力用件
② コース別雇用管理区分制度における総合職の募集、採用における全国転勤要件
③ 昇進における転勤経験要件
(*注4)間接差別に盛り込まれなかった4例
① 募集・採用における一定の学歴、学部要件
② 福利厚生の適用や家族手当の支給における住民票上の世帯主要件
③ 処遇の決定における正社員を有利に扱ったことによる男女の処遇の違い。正社員とパートタイム労働者の間で職務の内容や人材活用の仕組みや運用などが実質的に異なること等(総合職と一般職との間の処遇の違いについても同様)
④ 福利厚生の適用や家族手当等の支給のおけるパートタイム労働者の除外による男女のちがい。
質問3.
厚生労働省が5月30日に発表した「男女雇用機会均等法施行状況」によると雇用均等室へ
間接差別に関する相談件数は462件となっています。この中に。省令にて「間接差別」とし
て採用された限定列挙3例以外に、間接差別の類型を拡大する事案はどのようなものがあり
ますか。
(背景)
①平成18年6月14日衆議院均等法改正国会にて政府答弁
省令につきましては、均等室への相談事案において、間接差別の対象とることが適当ではないかというような事案が出てきたような場合、見直しの契機となっていくものと考えておりまして、職場の現状におくれることなく適切に対処する。
2.同一価値労働同一賃金の法的措置について
質問4.
政府は、現行の労基法4条に、同一価値労働同一報酬の原則が含まれているとし、
ILOから要請された、同一価値労働同一報酬の立法化の必要はない、との見解だが、下記の
労働基準第法4条では明白ではないと考えるが、どの部分にその文脈が見られるのか?
ご回答を頂きたい。また、CEDAW条約第11条(d)の実施のためにどのような法的措を
とるのか、その見解を求めます。
労働基準法第4条
(男女同一賃金の原則)
使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と性的差別
取り扱いをしてはならない。 (原文のまま)
(背景)
①CEDAW条約 第11条(d)
同一価値の労働についての同一報酬(手当てを含む。)及び同一待遇についての権利
並びに労働の質の評価に関する取り扱いの平等についての権利
②2007年 ILO条約勧告適用専門家委員会個別意見
継続する大きな賃金のジェンダー格差に鑑み、委員会は政府に条約の十分な適用を
保障するために、男女の同一価値労働同一賃金の原則を立法に移すことを考慮すること
③2008年 ILO条約勧告適用専門家委員会報告
男女の同一価値労働同一賃金の原則を規定するために法改正の措置を取るよう求める
④職場では同じ仕事をする男女の存在は稀有である。労働基準法第4条に依拠して、総合職の男性と、一般職の女性の賃金格差を是正することは困難である。同一価値労働同一報酬の原則が立法化されていれば、住友メーカ裁判や兼松男女賃金格差是正裁判にみられるように、判決に10年も13年もの長い歳月がかからなかった事は明白です。
3.職務評価について
質問5.
政府は、職務評価は、日本企業の雇用慣行になじまないと述べるが、長期雇用を前提とした“
日本型雇用システム”であった終身雇用制度は崩壊し、成果主義、能力主義へと移行した。
上司による、恣意的で不公平な評価でなく、ジェンダーに中立で客観的な職務の評価のため、
今、システムの構築が、急務である。男女間の賃金格差の是正のみならず、正規、非正規間
の格差是正に有効であると考えるが、政府の見解をお示しください。
(背景)
①2007年 ILO条約勧告適用専門家委員会個別意見
賃金の決定にかかわる客観性と透明性を確保することを含む、雇用および賃金制度の改善の必要性であることを想起し、委員会は同一価値労働同一賃金の原則を実施するためには、客観的で、
非差別的な職務評価の措置を研究し開発する必要がある。
②2008年 ILO条約勧告適用専門家委員会報告
同一価値労働同一賃金の原則は、男女が行う職務または労働を技能、努力、責任あるいは労働
条件といった客観的要素に基づいて比較することを伴う点を強調する。
③下記の表は、商社・兼松の原告が同課の男性との比較で、客観的な職務評価を行ったもの。
たとえば、Ms Odaの場合、賃金実態は、男性100にして63であるが、職務評価の結果、
男性と比較して102にて評価された。このように、日本のコース別人事制度のもとでも、
職務評価は不可能ではない。
④ 兼松男女賃金差別事件
1985年、均等法後、企業のコース別人事制度導入により、自動的に男性は総合職へ、女性は一般職に配置された。賃金格差は、27歳の男性の年収を45歳の女性が越えられない
という実態。1995年東京地裁に提訴、2008年高等裁判所にて、「コース別人事制度は、労働基準法代4条違反と判断」と一部勝訴した。
日本には、職務評価システムがないので、上記の表は、研究者、商社に勤務する社員らによって、数カ月かけて、カナダ・オンタリオ州の職務評価システムを使って、原告と同じ部署の男性とを比較したもの。日本で、職務評価システムを使って勝訴した裁判は、当事件は二件目。一件目は2001年の京ガス男女賃金差別事件は同じ手法にて勝訴した。
3.結果の平等について
質問5.
均等法は機会の均等を図るものであり、結果の平等を求めるものでは、ないのか?
下記の実例にみるように、経団連と政府のお考えは同じか?ご回答願いたい。
例−1)2006年6月改正均等法国会において、経団連代表は参考人として発言し、次のように述べた。「改正法律案の審議にあたり、男女雇用機会均等法は、結果の平等を求めるものでなく、機会の均等を図るものであり、その趣旨に合致しているかどうかの視点で(改正案を)検討した」
例—2)1994年、住友メーカーや住友電工の女性たちが、同じ年度に入社した同学歴(高校卒業)の男性はすでに課長に昇格し、彼女と月額24万円の賃金格差があるとして、大阪婦人少年室(当時)に調停を申請したが、「男性と採用区分がちがう」と調停不開始となった。1995年、彼女たちは提訴し、会社のみならず、国をも被告にした。その裁判の元で、国は、1996年2月、「均等法は、配置・昇進の機会を女子に与えることや昇進についての客観的条件が男女同一であることを求めるものではあっても、結果についてまで求めるものではないことが明らかである」と、準備書面を提出した。
(背景)
①CEDAW・一般勧告25号 暫定的特別措置
*単なる形式的法的または計画的な方法は、委員会が実質的な平等と判断する女性の事実上の男性との平等を達成するのに十分でない。
*結果の平等は、事実上のまたは実質的な平等の論理的な当然の結果である。
②住友電工調停不開始の理由
原告らが比較の対象に取り上げた男性社員は、管理職昇格前も原告らとは異なる職分(専門職)に所属しており、専門職に転換する以前も原告らは事業所採用であるのに対し、彼らは本社採用であり、求人票、採用時期等が異なることから、原告らとは採用区分が異なる者である。
募集・採用区分の違いによる雇用管理上の取扱いの差異は、均等法の関与するところではないことから、原告らが比較の対象とした男性社員は、「均等な取扱い」に反すると判断する際の比較の対象とはなしえないものである。
③ 住友電工裁判 96.02.14 国準備書面
均等法は雇用におけるすべての男女差別を禁止しているわけではない。この理由としては、
法律の制定、改廃を行う場合には、その内容は将来を見通しつつも現状から遊離したものであってはならず、女子労働者の就業実態・職業意識、我が国の雇用慣行、労働時間をはじめとした労働条件等労働環境、女子が家事・育児等のいわゆる家庭責任を負っている状況、女子の就業と家庭生活との両立を可能にするための条件整備の現状、女子の就業に関する社会的意識等の我が国の社会、経済の現状を十分踏まえたものとすることが必要である。
・均等法は、配置・昇進の機会を女子に与えることや昇進についての客観的条件が男女同一であることを求めるものではあっても、結果についてまで求めるものではないことが明らかである。
・均等法15条の調停は、紛争の円満な解決を援助するために行政サービスとして実施されるもの
③ 住友電工裁判 96.11.20 国準備書面
・女子差別撤廃条約締結国の義務として「すべての差別」が禁止されると解することは相当でないし、また、これらの義務を「ただちに」実現することが要請されているものではなく、「遅滞なく追求する」こと、時間をかけつつ漸進的に実現を図っていくことが許容されている(CEDAWに、定期的に報告することを要求していることからも、漸進的に目的を達成することが予定されていることは明らかである)