ILO条約勧告適用専門家委員会報告
ILO条約勧告適用専門家委員会報告 (2008年3月)
(WWNの提案が6回も引用されました)
1951年「同一報酬条約」(第100号条約)(批准:1966年)
1.本委員会は、2007年6月に総会委員会(基準適用委員会)で行われた討議と、その結果としての結論に留意する。本委員会は、総会委員会が、同一価値労働に対する男女の同一報酬を法律上も事実上も、より積極的に促進するよう日本政府に強く要請したことに、とりわけ留意する。委員会は、政府報告と、同報告に添付された日本労働組合総連合会(連合)の2007年10月19日付情報に含まれた本条約適用に関する意見に留意する。さらに委員会は、「商社ウィメンズ・ユニオン」と「女性ユニオン名古屋」の総代である「ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)」の2007年5月23日付情報に留意する。この情報は、2007年7月13日に政府に送付された。
2.男女間賃金格差に関する評価 本委員会は、フルタイム労働者間での時間当り所定内現金給与に関する男女間賃金格差が、2004年の31.2パーセントから2006年の32.9パーセントへと拡大した、とする政府による統計情報に留意する。男女間賃金格差は、製造業(41.1パーセント)と金融保険業(45.2パーセント)で最も大きく、運輸業(23.1パーセント)と通信業(28.3パーセント)で最も小さい。委員会は、男女間賃金格差が、依然として非常に大きいことに留意する。委員会は、フルタイム労働者の時間当たり所得格差が、2004年以来拡大していることをとりわけ懸念する。本委員会は、男女間賃金格差の根本をなす要因について、日本政府が詳細な分析を行うつもりであることに留意しつつ、採用と昇進における差別が男女間賃金格差に与える影響に関する指摘を含む、この分析の結果を、日本政府が提供すること、また、根本的要因に対処するための行動についての情報を提供することを求める。委員会はさらに、男女の所得に関する詳細かつ比較可能な統計情報を今後も提供することを政府に求める。
3.パートタイム労働 本委員会は、2007年5月の「パートタイム労働法」の改正が、男女間賃金格差の削減に寄与することを日本政府が期待していることに留意する。委員会は、改正法では、一定のパートタイム労働者はフルタイム労働者と同等とみなされるものとし、それはすなわち、とりわけ、賃金、教育訓練、福利厚生施設、およびその他の条件に関して差別がないことを意味する点に留意する。連合は、パートタイム労働者に対する差別は、依然として多くの面で性別に基づく差別であることを強調し、同法の改正によって新たな保護の対象となるのはパートタイム労働者のごく一部に過ぎないとして、同法の改正は不十分であったと述べている。本委員会は、改正パートタイム労働法の実際の適用状況についての情報を提供するよう日本政府に求める。この情報には、法改正が男女間賃金格差の解消にどの程度、寄与したのかに関するものも含む。日本政府はさらに、改正法の下で賃金差別の保護によって利益を得るパートタイム労働者の比率を性別によって示すとともに、この保護をパートタイム労働力に対してさらに総合的に拡大することを考えているかどうか述べるよう求められている。
4.同一価値労働 労働基準法第4条では、使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない、と規定しているが、本委員会は、同法が同一価値労働同一報酬の基本に触れていないことから、本条約の原則を十分に反映していないことを想起する。日本政府は、報告の中で、第4条は本条約の要件を十分に満たしているとする見解を繰り返し、内容の異なる仕事を行う男女間の賃金格差は、労働基準法第4条に違反するとした判例を想起している。政府はさらに、企業内で1つの職務から他の職務に労働者を配置することは、長期の人的資源開発を保証するものであり、日本では慣行であったと説明している。その場合、賃金は「職務遂行能力」に基づいて決定されたのであり職務評価に基づいたものではない。従って政府は「男女雇用機会均等法(以下均等法)」で規定されたように、業務の配分と権限の付与における差別の禁止は、賃金に関して「女性労働者に対する不利益な取り扱いを避けるための」有効な措置となったとする立場をとっている。
5.本委員会は、労働基準法第4条と均等法がジェンダーに基づく賃金差別の禁止を保証するために、連合が同二法の改正を求めていることに留意する。WWNによれば、労働基準法第4条に基づいて、女性原告の労働が比較の対象とする男性の労働と「同一価値労働」であるとした最終判決は1件に過ぎない。WWNは、同一賃金に関する訴訟の長さを強調し、男女同一価値労働同一報酬原則が法律で規定されていれば、より効果的に同原則が実施できるだろうと主張している。これは、年功賃金制から成果主義に基づく賃金制度への進行中の変化に照らしても必要であった。
6.本委員会は、男女同一価値労働同一報酬原則は、男女が行う職務または労働を、技能、努力、責任、あるいは労働条件といった客観的要素に基づいて比較することを必ず伴う点を強調したい。その比較が不可能な場合、どのように原則が適用されているのかを判断するのは難しい。本条約は、職務内容を同一報酬の確立に向けた出発点としているが、客観的かつ非差別的に適用されている限りにおいて経験、能力、成果といった要素が報酬決定の際に考慮されることを妨げることはない。従って本委員会は日本政府に対して、男女同一価値労働同一報酬原則を規定するために法改正の措置を取るよう求める。委員会は政府に対して、本条約の原則に影響を与えるような労働基準法第4条の下での賃金差別に関する、あらゆる新たな判例について詳細な情報を提供するよう求める。賃金差別に対処するという目的で、雇用管理制度と賃金制度が女性の所得に与える影響をさらに調査するよう求めた総会委員会の政府への要請を想起しつつ、本委員会は政府に対して、これに関して政府がとった措置と調査から得られた結果について示すよう求める。
7.間接差別 本委員会は、間接差別とみなされる措置について判断する権限を厚生労働省に与えている均等法第7条に関する先の意見を想起しつつ、2006年の均等法改正に続いて修正された均等法の施行規則第2条が、以下の3つの措置を規定していることに留意する。すなわち、(1)労働者の身長、体重、体力に関する要件、(2)コース別雇用管理制度における労働者の募集と採用に関連して、住居の移転を伴う結果となる配置転換に労働者が応じられるかどうかにかかわる要件、(3)職務の異動と配置転換を通じて得られた労働者の経験といった昇進のための要件である。委員会は、間接差別に関する一般的定義が、均等法の指針(「均等法指針」)の中に含まれており、施行規則第2条に列挙された事例に含まれない間接差別は司法により違法とみなされるとする政府の指摘にも留意する。政府は、問題の見直しを続け、判決の動向を踏まえつつ、必要に応じて施行規則第2条を改正するとしている。連合は、間接差別に関する均等法の限定的な規定が国際基準に合致するかどうか疑問視しており、引き続き間接差別の範囲を特定しない幅広い定義を同法に盛り込むよう求めるとした。WWNも、間接差別のより幅広い定義が適用されるべきであるとの意見を提出している。報酬に関するあらゆる形態の間接差別は、本条約に即した措置を講じられるべきであることを想起しつつ、委員会は、均等法第7条とその施行規則第2条の適用に関する詳細な情報を提供することを日本政府に求める。委員会は政府に対して、労働者団体および使用者団体と間接差別問題について協議を続け、関連する裁判について報告し、間接差別の定義によって報酬に関するあらゆる形態の間接差別が効果的に保護されることを保障する上で、いかなる進展がみられたかを報告するように求める。
8.コース別雇用管理制度 本委員会は、政府報告から、2006年「女性雇用管理基本調査」によれば、コース別雇用管理制度をとっている企業は全体の11.1パーセントで、2003年と比較して1.6パーセント増である点に留意する。コース別の男女間分布に関して、新たな情報は得られていない。連合とWWNの双方とも、コース別雇用管理制度が、事実上、依然として男女差に基づく雇用管理として利用されていると主張している。両者は、政府が出した「均等法指針」では、男女差別の禁止の適用を各「雇用管理区分」内に限定しているために、同一価値労働同一報酬原則に反して、別の区分で雇用された男女間の比較を排除することになる。そのため政府によるこの指針が、男女差にもとづく雇用管理の端緒を開くことになったとも両者は主張している。委員会は、企業によって設けられた異なる雇用区分に属する男女に対して、本条約原則の適用を制限することはできないと考える。本委員会は日本政府に対して、委員会の審査のために「均等法指針」のコピーを提供するとともに、もしあれば、連合とWWNによって提起された上記の問題に返答する意見を提供するよう求める。委員会は、とりわけコース別の男女数を含め、コース別雇用管理制度がどの程度用いられているのかについて、最新の統計情報を提供することも政府に求める。総会委員会が求めたように、賃金差別に対処する観点から、コース別雇用管理制度が女性の所得に及ぼす影響について、さらに調査するとともに、その調査結果について報告することを日本政府に求める。
9.客観的な職務評価 客観的な職務評価手法を促進するための努力を強化するよう政府に求めた総会委員会の要請を想起しつつ、本委員会は、日本政府がこの点に関して取った措置についていかなる情報も提供していないことに留意する。連合は、同一価値労働同一報酬原則を実施するための手段として、客観的な職務評価手法の活用を提案したとしている。本委員会は日本政府に対し、本条約第3条に則って客観的な職務評価を促進するために取られた措置について、次回報告で示すよう強く要請する。
10.労働監督 本委員会は、政府報告から、2005年には122,733件の労働条件調査が行われたことに留意する。労働基準法第4条違反10件については、行政指導を通じて対処され、1件は検察に送検された。委員会は、職場での男女間賃金格差について、「労働者が女性であることによるのか、あるいは、職務、能力、技術、その他の事実によるのか」を監督官が確認する、とした政府の指摘に留意する。委員会は、職務の異なる男女が同一価値労働を行っている場合、賃金差別の事実を見分けるために労働監督官が用いている具体的な手法についての情報を提供するとともに、労働監督官に対して同一価値労働同一報酬原則に関する特定の訓練が提供されているかどうか示すことを日本政府に求める。政府は、また、労働基準法第4条違反の事例について、事実関係を含めて引き続き情報を提供するよう求められている。