快適なシアトルの生活
海外だより
久世啓子
シアトルの建築設計事務所で働いて一年半が過ぎました。日本の大学を卒業し、大阪の建築設計会社に一年近く居ましたが病気になりそうな毎日でした。毎朝男性社員の灰皿の後始末を女性がするのが当然のような職場。残業、残業で毎日終電に近い帰宅でした。この会社に居てもとても将来があるとは思えませんでした。
会社を辞めアメリカの大学に入りシアトルでの生活も5年以上になります。今の会社は性別による給料の差はありません。自分で交渉して入社します。日本で良く見られるような就活の光景はこちらでは見られません。大学卒業の年に黒のスーツで沢山の会社の就職説明会に出席したことを思い出します。
こちらではいつも自分のしたいときが就職活動の時期です。入社したい会社に電話やインターネットを通じて自分を売り込む。履歴書、作品、ポートフォリオを送って採用を希望する。極端に言えばアポ無し突撃。募集していなければ募集の時には私を考えてと、売り込む。交渉が成立しそうなら次は給料の話し合いへと進む。会社は必要な仕事をしてくれる人が欲しいので別に新卒じゃなくても良いのです。
現在の会社は社員10人以下の小さなデザイン事務所ですが設計事務所はほとんどそんな規模です。ただ現在は不況の真只中で特に建築関係は大変な状況です。倒産する会社も沢山あり、私の事務所も一時週5日の勤務が4日になり健康保険も自分たちで払う選択を言い渡された時もありました。給料もカットされ、週の残りの日を働く所を真剣に探さなければと、考えた事もありました。今は何とか持ち直し週5日8時から5時まで働いています。それにしてもサブプライムの発端の不況の発信地にしては皆明るくポジティブシンキングです。何とかなるという雰囲気の人が多いようです。日本のような不況一色のムードはただよっていません。良いのか悪いのか?国民性でしょうか?
シアトルは自然の豊かな美しい所です。ただ雨が多くうんざりしてカリフォル二アへ引っ越す人もいるようです。夏の美しさはすばらしく、湖が多くみどりの木々が輝いています。私は職場へ行かない土曜日や日曜日は地図を持って散歩にでかけます。人にあまり干渉されないここの生活が今は気に入っています。
けれどもここでの生活にも不便はあります。その一番の被害は停電です。いったん停電になるとほとんど生活がストップしてしまいます。生活のエネルギー源が全て電力の為、暖房も使えず、TVも見られず、本も読めません。コーヒー一つ沸かせず、信号も止まってしまいます。そんな時は電気のついている隣の町のモールへ食事に行ったり、買い物に行って時間をつぶします。停電は強風で木々が倒れ電気の配線に支障をきたした時に起きる場合が多いのです。配線の同じ区域は全部真っ暗になってしまいます。大きな木々の多いシアトルはよくそんな被害が起きます。
もうひとつの不便は日本のように公共の交通機関が発達していない事です。シアトルの公共交通手段はバスです。沢山の路線がありますが市民はほとんど車です。車が生活手段です。留学生をはじめ車を持たない人はバスを使うのですが雨が降れば遅れ、雪が降れば勝手にルート変更。常に時間に正確ではないので本当にあてにならず不便です。よほど慣れないと次の駅の案内もはっきりせず乗り越してしまいます。それでもバス会社に文句を言う人はそんなに居なく、アメリカ人たちは日本人のように気にならないのかもしれません。
最後にもう一つは健康保険です。アメリカには日本のように国としての保険制度がありませんが個人で保険会社の健康保険に加入している人は沢山います。自分の入っている保険によって使える病院や医療機関も違ってきます。日本のように自宅の近所のドクターに診察をまず受けるという事はできません。保険を提供しない小規模の会社で働く人々もたくさんいます。保険があっても歯医者などは対象外と言う場合が多く、日本の保険制度のありがたみが良く判ります。
オバマ政権は何とかできるのでしょうか。難しいでしょうね。ここ5~6年は期待していません。
シアトルでは犯罪以外何をしてもあまり干渉されないここの生活はかなり快適です。みなさんアメリカで暮らしてみませんか。