WWNニュース 64号 海外だより 何故フランス人女性は…
☆★☆ 何故フランス人女性は子どもを産むようになったのか ☆★☆
==海外だより フランス編 Part2== 菜畑 涼子
フランスでは近年の家族政策により出生率が伸び続け2010年では2.01となり、ついにヨーロッパでトップの多産国になりました。10年前に比べて20代、30代の女性が減少したにも関わらず2万人多い赤ちゃんが産まれています。実際に息子の幼稚園に迎えに来るお母さん達は3人に1人は妊娠しているのでは?と思うほど妊婦が多く、それもお腹にいる子は3人目、4人目というお母さんも少なくありません。何故この様に子どもを産むようになったのでしょうか。
第一の理由として、前回述べたように子どもを預ける環境が整い、費用もほとんどかからないということが挙げられます。保育ママ制度や早くて2歳から入れる幼稚園が保育園の役割を備えているので、預け先を心配する必要はありません。そして子どもが3人以上になると税金が減る上、手当ては厚くなり大家族割引があちこちで適用されます。計画的に3人以上産んでいるという家庭も多く、私もこんなに保障されるのならもう1人産んでみようかな、と考えさせられるほどです(しかし帰国の際を考えると飛行機で子連れ2人が体力的・経済的にも限界なので3人目は断念)。出産休暇(母親は16週、父親は2週間)は夫婦ともに取るのが一般的で、その間の収入も84%が保障され、検診、出産は全額保険の範囲内で、更にお祝い金が支給されます。子どもが3歳になるまでは育児休暇又は労働時間を制限し、給料の6割が保証されるシステムを利用しながら働いている女性も多いようです。子どもが多いほど割高になる20歳までの児童手当に加え、妊娠5ヶ月(!)~3歳までの育児手当(月約2万円)、3人以上になって大きな家に引越しが必要な場合は「引越し手当て」まであり、子だくさん家族には正にいたれりつくせりの制度になっています。子どもを持つこと=経済的負担が大きい、仕事ができない、育児中心の生活、レストランに行けない(行けてもファミレス)、という図式はこの国には存在しないのです。出産後も同じ生活を維持し、以前同様に働き、夫と育児や家事を分担しつつ大人の時間を大切にし、子どもを預けて時には夫婦でゆっくりデートなんて当たり前のことなのです(逆にこれをしないと不仲が疑われてしまうほど)。
もうひとつの理由は、婚外子が多いことです。なんと50%以上の赤ちゃんが婚外子です(日本は2%)。息子を幼稚園に入れる際に夫婦で面接に行くと、まず最初に先生から「結婚されていますか?」と聞かれました。私は驚きで一瞬言葉に詰まりましたが、それだけ未婚の親が多いということだったのです。それも単に確認のため、といった口調で、記入する書類の親の欄では「婚姻・別居・離婚・内縁」のどれかに丸をつければいいのです。事実婚の子どもも法的に嫡出子と同様に扱われ世間の偏見もないため、いわゆる「できちゃった婚」は存在せず、子どもを持つことに対して「結婚」という社会のハードルがないことも出生率の上昇に関係しているようです。
日本では多くの女性が結婚し、子どもを持った時に「仕事か育児か」という選択に迫られると思います。仕事に復帰できたとしても、育児の為に仕事を制限しないといけないのは一般的に女性の方で、男性は子どもの有無で仕事に影響がでることはありません。一方フランスの女性は産後も以前と同じように職場に復帰し、父親も学校の送り迎えや家事、育児を積極的にしてくれるので、母親は育児に振り回されることはありません。そして子どもを小さな頃から第三者に預けることが「社会性や自立心がつく」と推奨されるので、日本に比べると母親の肩の荷の量が違うように思われます。日本では仕事や特別な理由がない限り、幼稚園以下の子どもは家で母親が世話をするのが通常ですが、ここでは働いていなくても「何故預けないのか?」と逆に聞かれるほどです。これには賛否両論あると思いますが、私は当時1歳の娘を預けるようになってから、一緒にいる時間には思いきり愛情を注げ、娘も幼稚園前の準備段階として他人と関わる機会ができて良かったと思っています。
フランスの職場での男女比率はほぼ50%で、給料格差もなく、女性の方が稼いでいるというカップルも珍しくありません。出産後専業主婦になりたくても、経済的にすぐに復帰せざるを得ない場合もあるようです。しかし夫の稼ぎが特に多くなくても、その分父親が家にいる時間が長いので、家事、育児の参加度は多くなります。日本の場合、夫の稼ぎが十分であっても朝から晩まで仕事では、残された妻は全ての家事、育児を担わざるを得なくなります。日本では給料と育児の比重が夫婦どちらかに偏りすぎているために、女性が働きにくい環境になっているのではないでしょうか?1+9でも5+5でも10になるなら、差が少ない方がお互いに精神的な余裕が出来る気がします。日本でも少子化対策が議論されていますが、制度はすぐに変えることが出来ても、意識を変えるのには相当の時間を要すると思います。私が日本で息子を出産した際、夫は上司に立会い出産希望の旨を伝えたうえで仕事を半日休みました。その後、お祝いどころか「ペナルティ」として一日分のお給料が差し引かれました。これは極端な例かもしれませんが、子どもの誕生をペナルティと呼ぶ社会が存在することに大きく落胆し、憤りを感じたことは今でも忘れられません。
私はフランスの制度が絶対と思っているわけではありません。子どもを多く産めば働かなくても生活できる、という怠慢な失業者を増やし、子どもをつくったものの別離するカップルの数は日本の比ではありません。しかし出産が女性の人生を大きく変えない、ということを国を挙げて徹底的に追求し(家族政策への財政支出はGDP(国内総生産)の約3%に対し日本は0.8%)、育児が尊重される社会であることは事実です。今後の高齢化社会に向け、日本も「働く女性が子どもを産みやすい社会」へ少しずつでも意識が近づいていくことを期待しています。