WWN ニュースレター 2009年1月10日発行 ①
=ジュネーブのILOからパリのOECDへ= 越堂 静子
◆継続は力・WWNの国際活動
女性差別撤廃条約(CEDAW)の批准国は、男女平等の進捗状況を、4年に一度、国連に提出せねばなりません。日本政府は第6次レポートを昨年の4月にCEDAWへ提出しました。
その結果、今年7月にニューヨークの国連本部にて、日本政府レポート審議会が行われる事になりました。第4次、5次日本政府レポートが同時に審議された2003年は、日本から57名も傍聴参加者があり、その熱意を受けとめたCEDAW委員たちは、的確で核心にふれた内容で日本政府に質問を行いました。その成果として出されたCEDAW勧告には「間接差別」の明記、「指針」の改正など、政府にとって厳しい内容が盛り込まれました。そして、このCEDAW勧告は、住友電工裁判に勝利和解をもたらし、原告たちが管理職へ昇進・・という素晴らしい話に展開しました。
WWNが結成されて以来の13年間、住友メーカー元原告たちと共に、職場の問題点をピックアップし、「日本で男女平等を促進するための要望書」を国際機関に提案し続けてきました。間接差別であるコース別をなくす、コース別を容認する「雇用管理区分」の廃止、同一価値労働同一賃金の立法化、ジェンダー中立な職務評価の確立などです。特に、2003年以来、WWNの報告内容が国際機関に反映され、CEDAWやILO条約勧告適用専門家委員会から、日本政府に勧告や個別意見が出されました。
また、昨秋、ILO、OECDを訪問した折、これらの機関から、今後とも、WWNの実態報告を待つというメッセージを頂いて、身が引き締まる思いがしました。現在、WWNは人事制度の調査、非正規社員のヒヤリングなど実態調査を行い当面はCEDAWへのカウンターレポート作成を予定しています。
WWNは今、「継続は力」「成せば成る」という事をこれらの国際活動を通じて実感しています。
◆ なぜ、ジュネーブに行ったのか
さて、本題にもどります。CEDAW本部は、女性問題のメインストリーム化のために、事務局をNew York からジュネーブへ移転しました。
そのジュネーブから、昨秋の9月頃、急遽、CEDAW作業部会開催のニュースが飛び込んできました。この作業部会=Working Groupは、CEDAW委員23名うち、5名のメンバーが、選出され、各政府のレポートに基づいて、CEDAWからの質問書(List of Issues)を作成し当該政府に送り返します。各政府は、この質問書への回答を本審議会開催の3カ月前にCEDAWへ送らねばなりません。
この作業部会で、CEDAW委員にアピールする重要性は、実は、2003年の審議会のときに経験していましたので、多分、作業部会は、2月くらいに開催されると思っていました。しかし、このたび、突然に、11月開催と決まったのです。予期しなかった時期でのジュネーブ行きに関して、急遽、現役組の西村かつみさん、白藤栄子さんは、会社に休暇の手配をし、上司に「国連とOECDに行きます」と報告しました。
こうして、WWNから、住友電工・元原告の西村さん、白藤さん、住友化学・元原告の石田さんと越堂の4名が参加することになり、JNNC(日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク・代表世話人・山下泰子)のメンバーとして、赤松良子氏、堀内光子氏を含め9名、日弁連から弁護士2名と合計11名が、ジュネーブ国連に向かいました。
ジュネーブ行きを前にしてJNNCは、2003年の時と同様に、各NGOからの政府質問とその背景 を集約してCEDAW作業部会へ提出しました。
別途WWNは、CEDAW委員へ直接、要望書を送りました。このCEDAW作業部会終了後に、アポイントをお願いしていたILO・平等部のオルネイさんと会談。翌々日はパリにて、OECD(経済協力開発機構)を訪問。各機関にむけ下記の英文資料を提出し、男女平等実現のための課題を訴え、WWNのミッションを無事、果たしてきました。
WWNのミッション
★国際機関に提出した英文資料
1)CEDAW作業部会へ政府質問要約
男女平等実現のためにWWNの究極の提案
①間接差別を容認する指針・雇用管理区分の削除
②同一価値労働同一賃金の立法化
2)CEDAW作業部会へ政府質問詳細
3)2003年 CEDAW勧告 ・・・・2003年 8月
4)Japan Times ・・・・2008年 10月
5)均等法英文 ・・・・2007年 4月
6)均等法「指針」英文 ・・・・2007年 4月
7)ILO総会へ日本の働く女性の実態レポート ・・・・2007年 5月
8)ILO条約勧告適用専門家委員会・個別意見 ・・・・2008年 3月
9)兼松裁判報告 ・・・・2008年 1月
エピソード—その1 指針の英訳
ジュネーブ出発前に、厚生労働省へ電話をした。均等法の「指針」の英訳を入手したい、と。ところが、なんと、厚生労働省いわく、「指針の英訳はしていません」。 実は、2008年3月のILO条約勧告適用専門家委員会から、指針の英訳要望があり、WWNが6月に開催した省庁交渉で、この件を確認したところ、「今、準備中」という政府回答であった。
いまだに英訳する気配がないという事は、政府に都合が悪いのか?
コース別制度を容認する雇用管理区分を定義している、この「指針」の英訳をCEDAW委員とILOへ届けることが、WWNの使命であると実感し、出発直前に、WWNの岡田仁子さんに「指針」の英訳をお願いをした。均等法(政府英訳)と共に、指針英訳を持参し、各機関からとても喜ばれました。
◆ CEDAW作業部会…2008年11月10日・午前中
ジュネーブ国連本部アセンブリービルで、正午すぎから45分間、CEDAW作業部会にむけてのNGOからの発言時間が設けられたので、私たちはその模様を傍聴しました。
NGOからの参加は、アルゼンチン、日本、スイスの3カ国でした。各国にたった10分間の割り当てです。日本からは、JNNCの大谷弁護士が、全国のNGOから集まった主な内容をまとめた質問項目を流暢な英語で発表されました。
<JNNCの質問11項目>
① CEDAW勧告の遵守
② 選択議定書批准
③ 従軍慰安婦問題
④ マイノリテイ女性
⑤ 政府の差別発言…女性は子供を産む機械
⑥ 人身売買
⑦ ジェンダー教育
⑧ 雇用における差別
⑨ パートタイム労働者
⑩ リプロダクツ・ライツ
⑪ 家庭の無償労働
なお、CEDAW委員からの日本への質問は、従軍慰安婦、DV、セクハラ問題、パート問題でした。
◆ CEDAW委員とのランチタイム…最大のロビー活動の場
当日、JNNCが主催したランチタイムに、作業部会の責任者であるパッテン委員(弁護士・モーリシャス)と、タン委員(弁護士・シンガポール)が参加されました。NGOにとっては、この時間が一番大切な時間でした。この時間を活用しなくては意味がありません。その場の空気を読んで、私は、CEDAW作業部会の責任者であるパッテン委員に挨拶に行きました。「私の名前は越堂静子です。Shizukoはクワイエットという意味です」と自己紹介し、委員から笑いを取りました。
そこで、均等法と指針を示して大阪弁イングリッシュで説明しました。「均等法は、男女双方を対象に差別を禁止していて、素晴らしい法律です。しかし、この指針に記載されている『雇用管理区分』という区分が、募集、採用、教育、昇進、昇格まで、すべてにこのカテゴリーが適用され、コース別制度の導入を容認している。結果として、均等法は、比較する男性が存在する、総合職の女性のみが救済される法律で、多くの一般職の女性には『絵に描いた餅』でしかない。この雇用管理区分は、間接差別です」と、その件で、是非質問してほしいとお願いしました。
そして、しばらくは、皆さんが歓談されている時を見計らった後、昭和シエル石油裁判原告の野崎さんと住友メーカーの元原告たちを委員に紹介しました。「野崎さんの裁判は、15年間もかかっている。私の友人の商社・兼松の原告たちは、13年間も裁判をして、双方とも、今、最高裁にて上告中です。彼女たちにとって、選択議定書が批准されれば、大きな希望になる」、「同一価値労働同一賃金が明確に法律に記載されないから、裁判の解決が長期化し、また非正規社員と正社員の賃金の大きな乖離が存在している」という事をお話しました。
それから、また、皆さんがワインを楽しまれる時間をおいてから、委員に労働基準法第4条の英訳を示し、「厚生労働省は、4条に同一価値労働同一賃金は含まれていると回答しているが、この短い文章のどこに、明記されていると思いますか?」と提起した。こうして、2時間半にわたるランチタイムを活用して、WWNは、質問してほしい内容をすべて委員に伝える事ができました。
◆ 反映されたWWNの願い
リスト・オブ・イシューズ(日本政府への質問項目)が、CEDAW作業部会開催の10日後には、日本政府に送られました。この、質問項目の番号が、(22)に、WWNがCEDAW委員にお願いした内容が、下記のように見事に反映されました。
List of issues
22. 報告書は、改正雇用機会均等法に関する指針が改正されたと述べている。この指針、特に、この指針の雇用管理、募集・採用、配置(仕事の配分や権限の付与を含む)及び昇進に関連する項目において、間接差別がどのように含まれているかについて、詳細を提供して下さい。
早速、JNNCのMeetingが12月中旬に東京で開かれ、私も参加しました。各NGOから29名の方々が参集し、この質問書にむけNGOからの回答の役割分担を決めました。今後の予定は、「リスト・オブ・イッシューズへのNGOからの回答をCEDAWと政府に提出する」、「与野党国会議員と各省庁への働きかけ」、「日本NGOのエッセンスレポート作成」、「メデイアへの協力依頼」などを行います。
エピソード—その2 ジャパン・タイムスの記事
Japan Timesが、直前に、CEDAW作業部会にWWNがロビイングに行く事を掲載してくれました。その中に、私のインタビュー記事も紹介されました。パッテン委員に名刺をお渡しするとき、資料に添付したJapan Timesを示し、「これが私です」と自己紹介しました。「Oh!」と言われ、メデイアの証明のもと、我がWWNの存在を認識して頂きました。
また、後述するOECDとのアポイントは、OECDのOut lookのHPを端から端まで調べたところ、たった一人だけメールアドレスと名前が掲載されているのを見つけました。
「日本のNGOですが、ILOとCEDAWへ提出した資料をもって、日本の働く女性の実態をお話したい」とメールすると、即座に「興味があるからお会いしましょう」と、お返事があって、当方、びっくり。2回目のメールにこのJapan TimesとILOの個別意見(2008・3)を添付しました。ILOの意見書には、6回もWWNの名前が出てくるのですから、相手もWWNが何者か疑わなくて済んだというものです。誰の紹介もない、突然のアポに容易に会って下さるとは思わなかったので、当初は、守衛さんに、WWNの資料を渡そうと覚悟していました。
また、歴史の扉が開いたと思いました。
[ CEDAW・ミニ知識その ① ]
女性差別撤廃条約は、1979年に国連で採択された「女性に対するあらゆる形態の差別を撤廃するための条約」で、先達から送られた世界中の全女性にむけてのプレゼントです。日本政府は1980年に女性差別撤廃条約を署名した。署名後、条約を批准するためには、法的に、次の3つの課題があった。「雇用の平等=男女雇用機会均等法を制定」、「国籍法の変更=日本人男性が外国人女性と結婚するとその女性はすぐに日本国籍がとれる。しかし日本女性と結婚した場合は外国人男性は3年間待たねばならない」、「男子女子を対象にした高校家庭科の共修」、これらの3つの国内法の整備のあと、1985年7月に、女性差別撤廃条約を批准しました。
[ CEDAW・ミニ知識その ② ]
女性差別撤廃条約(The Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women)、女性差別撤廃委員会(UN Committee on the Elimination of Discrimination against Women)といい、双方とも、CEDAWと呼称します。批准国は、条約に基づいて4年に一回CEDAWへ自国の実態レポートを提出せねばなりません。CEDAW委員は、世界から23名が選出され任期は4年。今年3月、林陽子弁護士は、前委員の転任により、民間から初めて選出されました。
◆ILO・平等部のオルネイさん訪問…11月10日・夕刻
ILOで、1年ぶりにお会いした平等部のオルネイさんに、まず、兼松裁判の高裁判決の内容と昭和シエルの野崎さんの裁判報告を提出しました。
特に、兼松の裁判は、2008年1月高裁にて一部勝訴しましたが、それは大学教授や商社に働く人たちが6カ月以上もかかって作成した、職務評価に効果があったのだと、力説しました。英文の労働基準法4条を示し、ILOから指摘されているように、同一価値労働同一賃金が法的にクリアになれば、10年も13年も裁判はかからなかったと、強調しました。
そして、「指針」の英訳をお渡ししたときは、オルネイさんは大喜びでした。「これは、自分に提出された私的な文章だから、来年の6月くらいの時期に、WWNとして、ILOに公式に報告書を提出してほしい。そうすれば、政府に公式に質問する事ができるから」という依頼でした。ILOからWWNへの信頼に応えねばと責任を感じました。
オルネイさんのお別れの言葉は、「来年の7月にNew Yorkで会いましょう」でした。
◆パリのOECDにて…11月12日・午前中
OECD(経済協力開発機構)は世界主要30カ国の政府機関から成り立ち、ソーシャルパートナーとして、各国の企業、労働組合と協力関係にあるとのこと。パリに本部があり、Head of the Employment Analysis and policy Divisionのステフアノさんと、エコノミストのアンさんにお会いしました。OECDの担当者の、お二人からは、歓迎をうけ、当初30分の約束でしたが、1時間もお話をしました。
今回は、通訳の方がいないので、ここでも越堂が大阪弁イングリッシュを駆使して頑張りました。自分たちのことは説明できましたが、私のヒヤリング能力の欠如にて、相手が話してくれたすべてを理解できたのではないので、残念でしたが、同じフイールドの話をしているので、一定は理解できたと思っています。
「OECDの『雇用に関する』ニュースソースはNGOからも入手するのですか?日本からのNGOはWWNがはじめてですか?」と質問しましたら、NGOとも対話するが、日本のNGOとは、WWNが初めてであること。WWNの情報にとても、興味がある。日本は、非正規が多すぎる。日本は、若い人たちの就職の場が少なく、非正規になっている。OECDは、非正規問題をハイライトとしている。特に賃金のこと、非正規社員のトレーニングに関し正規社員と同じにするなどが課題であると話されました。
さらに、ステファノさんから、「パートタイム労働者は何時間働いているのか」と質問がありました。しかし、WWNは残念ながら、パート労働者の詳細は分っていないと、昭和女子大学の森ます美教授が、非正規雇用者の実態を労働旬報に書かれていたので、「日本語ですが」と、献本してきました。ステファノさんは、「早速、英訳します」とのことでした。
そして、私は、非正規労働者は、パート労働者だけでなく、今急増している派遣社員、契約社員など有期雇用者に対して、法的に大きな問題がある事を説明しました。特に、WWNの会員の小谷成美さんのことを引用し説明しました。彼女の場合は、契約社員の雇い止め裁判において、裁判官は、「自分が契約したのだから」と彼女は敗訴しました。その後、彼女は司法試験にパスし弁護士の道へ歩みはじめました。
また、商社の採用にみられるように、従前の一般職の女性の採用をストップし、女性のみを、3年、5年の契約社員として雇用している。これは、新たな間接差別だと主張しました。
それから、住友メーカー裁判の3名の元原告たちに「裁判は今でも、続いているか?」と質問がありました。「残念ながら、労働基準法4条も明確でないし、均等法もコースが違えば比較の対象にならない。どの法律も機能しがたく、また、歳月がかかるので、みなさんあきらめ気味である」と説明すると、アンさんが、「雇用主の証明の仕方も違うしね」と、日本の裁判の困難さを理解されていました。ステファノさんは、今後とも自分たちとコンタクトを続けてほしいと、言われました。
「天下のOECDから期待されるなんて、こんな奇跡が本当におこったんだ」と信じられない思いを胸に帰路につきました。