WWN ニュースレター 2009年1月10日発行③
主催:ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク 助成:財団法人 倶進会
共催:兼松裁判是正の会、国際女性の地位協会、ACW2、女性労働問題研究会
大阪会場 11月23日(日) 東京会場 11月24日(休)
◆会場:ドーンセンター ◆会場:明治大学リバティタワー
◆パネリスト ◆パネリスト
林 陽子弁護士 近江美保さん
(CEDAW新委員) (東海大・日本女子大非常勤講師)
クリシャンティ・ダルマラジさん クリシャンティ・ダルマラジさん
(人権コンサルタント) (人権コンサルタント)
両会場とも *通訳 岡田仁子さん *コーディネーター 越堂静子
【 大阪会場レポート 石田絹子 2008年11月23日】
11月23日、24日の大阪と東京で開かれた連続国際シンポジウムは2会場で約140名が参加しました。国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)の新委員に着任された林陽子さん(大阪会場)、サンフランシスコで人権研修を取り組むクリシャンティさん(両会場)、国際女性の地位協会などで翻訳や国際活動に携わっている近江美保さん(東京会場)をパネリストとして迎えた内容濃いシンポジウムとなり、また直前にはCEDAW作業部会がジュネーブで開かれ、WWNがロビイングしたばかりといういいタイミングになりました。
林陽子さんは前任の斎賀委員が転任された後の3年の任期を受けて、初めて民間から選ばれた委員です。政府からこの話があったとき、「あらゆることを犠牲にしてもやるべきだと思った」と強い決意を話されました。CEDAWの組織や新システムついての具体的な話は気概と魅力にあふれ、聞きほれる参加者もたくさんいました。
2009年はCEDAW条約採択30周年、選択議定書採択10周年であり、何よりも日本政府レポートが4回目の審議をされる年であって、この重要な年に選択議定書を日本に批准させたい。国が批准すると会議中に「○○国が批准!」と逐一報告されるそうで、「私の任期中にその場面を必ず」と強く言われました。
新システムは、政府報告は前回の最終コメントを実行したか、しなかったのは何が障害か、について報告せねばならないというもの。また、国別報告のタスクフォースが新設されて、林さんはドイツを担当し、さらに高齢者女性の「一般勧告」の作業部員をも引き受けたそうです。
また、「政府へのリスト・オブ・イッシュー(質問項目)に質問内容が掲載されても、本会議で委員から質問があり、正式に政府からの回答をとらないと最終見解に掲載されない可能性がある」ということで、本会議でのNGOのロビイングのタイミングがいかに大切かなど、有意義なアドバイスをいただきました。7月のニューヨークの本会議にはたくさんでロビイングし、WWNが求める「改正均等法の指針の『雇用管理区分』は間接差別ではないか」という質問に最終コメントが出るようにしたいものです。
クリシャンティさんは、WWNの越堂さんが2007年11月にイタリア・コモ湖畔で開かれたIWRAW-AP(国際女性の監視委員会=世界最大のNGO)に招かれた時に会い、間接差別をなくすためのすばらしい実践をしておられることを知って、今回パネラーとしてお招きしました。CEDAW条約を批准していないアメリカで、1998年にサンフランシスコ市が全米で初めて市の条例として採択し、その後の10年の変化を報告しました。公務員の職場の64部局に聞き取りを行い、CEDAW条約にてらしてジェンダー分析を実施。例えば、建築現場で20年間働いてきた男性が性転換をしたあと同じ仕事に着いたところ、「運ぶ力があるのか?」「仕事ができるのか?」と言われ、賃金も下がったという、差別の微妙な領域に特に関心を持って取り組みました。
サンフランシスコに続いてロサンゼルス、シカゴ、ニューヨークなども条例を採択し、オバマ大統領が誕生すれば2~3年後には条約批准も可能だとのことでした。
【東京会場レポート 上田裕子 2008年11月24日 】
前日の大阪会場で林陽子CEDAW(女性差別撤廃)委員の臨場感あふれる報告を聞いて、なにか明るい展望がひらけるような気分で最終のひかりで帰京しました。そして翌24日は東京の本番です。今にも降り出しそうな曇天に心配しましたが、定刻前には参加者が続々と集まり明治大学の大教室がいっぱい、受付担当は大忙しという嬉しい状況でした。
最初のパネラー近江美保さんの「女性差別撤廃条約と選択議定書」についてのお話は、とても明快で混沌とした私の頭の中を整理するのに大いに役立ちました。まず、1980年にコペンハーゲンで開催された第2回世界女性会議の席上で、日本がこの条約を署名するところから始まりました。当初、日本政府は会議に不参加の予定でしたが、朝日新聞の女性記者、故松井やよりさんがこれをスクープして、広く世間に知られるところとなり、条約の署名を求める運動が一挙に盛り上がり、同時に旧労働省内の女性たちの奮闘もあって、7月17日の会議最終日の2日前に閣議決定されて署名されたというエピソードが披露されました。この条約は誕生の時から日本国内の女性の運動の力が必要だったのですね。
いよいよ理論的なところに入ると、丁寧にCEDAW委員会の仕組みや役割についての説明です。たとえば、今回、WWNがロビー活動をした会期前作業部会は、昨年4月に提出された日本政府のレポートに基づいて、CEDAWからの質問項目(List of Issues)を作成する部会です。WWNのロビー活動は非常にタイミングがよかったことがよく分かりました。その質問項目に日本政府は回答しなければなりません。その回答をもとに、今年7月にニューヨークで開催される日本政府レポート審議会で質疑応答が行われます。最終的には「総括所見」としてCEDAWの評価と勧告が出されます。このような流れのなかで、私たちの運動をどのように進めていくべきか、前日の林陽子CEDAW委員のお話と重ね合わせて考えることができました。大きな収穫です。
つづいて選択議定書が批准される場合の最大のメリットとして「個人通報制度」の説明がされました。しかし、国内ですべての審議(たとえば最高裁)が済んでからの最終手段となります。選択議定書の批准運動とともに、当面する裁判闘争に全力で取り組まなければならないことを再認識しました。
次は人権コンサルタントのクリシャンティさん(スリランカ出身の米国人)の実践報告でした。とても分かりやすくサンフランシスコ市での経験を語ってくださいました。米国は先進国の中で唯一の女性差別撤廃条約を批准していない国ですが、その歴史にはやはり紆余曲折があって、民主党のカーター、クリントン両大統領は署名したにもかかわらず、共和党の外交委員長が委員長権限で国会上程を拒否したのだそうです。このような米国の状況下でも、サンフランシスコ市では市のレベルで条約と同じ内容の市条例をつくらせて、具体的な課題の解決を図っているという実践です。はじめは市政における女性差別の撤廃を実現し、それを民間に広げていく方針です。たとえば、役所の中の女性管理職の数を増やす、働く母親のためにフレックスタイムの導入、職場保育所の確保、そのほかセクハラ防止などの取り組みを市職員やNGOでタスクフォースを作って取り組んでいくのですが、その中には労働組合も中心メンバーとして参加しています。私たちも身近なところからの実践を考えなくてはと思います。学ぶところがたくさんありました。